「鈴はいい子だよ。可愛くて、綺麗で、優しくて、何事にも一所懸命で。今年の新入社員の女子の中では、断トツのNO1って、早くから評判だった。」


やっぱり付き合い始めると、達也でも「鈴」って、呼び捨てにするんだな。そんなことを思いながら、雅紀は聞いている。


「当然、狙ってる奴はいっぱいいた。実際、告白も何人からか、されたそうだ。大学時代には付き合ってた奴もいた。彼女なら当たり前だろ。」


「・・・。」


「だけど、彼女は結局は誰にも振り向かなかった。なんでだと思う?それは、彼女の心の中に、ずっと俺がいたからだ。」


「なんだ、自慢話かよ。」


そう言った雅紀に


「バカ。お前、俺と何年の付き合いなんだよ。」


と答えた達也の表情は、真剣だった。


「6年前、俺とお前はなにか出会いでもねぇか。そんな思いで、あの日、あの海に行った。当時女子高通いだった彼女達も、同じ思いで、海に来たそうだ。そして、俺達は出会った。」


「ああ。」


「普通なら、そこで盛り上がるよな。半日一緒に過ごして、鈴が俺に好意を持ってくれたことは、さすがの俺も気付いてたし、もちろん、俺も鈴に好意を持った。」


「・・・。」


「にも関わらず、何も起こらなかった。理由はお前も知っての通り、単に俺に勇気がなかったから、俺がヘタれだったから。」


「まぁ、な・・・。」


「だが、連絡先も何も聞かず、去って行った俺を見て、彼女はこう思ったそうだ。『私みたいな子供じゃ、達也さんの興味をひかなかったんだ』って。冗談じゃない、心臓バクバクだったんだぜ。」


そう言って苦笑いする達也。


「その後、鈴の周りに現れた男たちは、積極的というか、がっついてる奴らばかりで、鈴は閉口してたようだ。話を聞く限り、がっついてるというより、まぁ普通に押してるだけのような気がするんだが、その度に、たった半日、一緒に居ただけの俺の株が彼女の中で、上がってったらしい。『達也さんは紳士だった』って。」


「・・・。」


「そしたら我ながら驚くしかない劇的な再会だろ。もうこれは運命って、すっかり舞い上がってたら、俺は知らん顔。『私のこと、覚えてないの?』『それとも知らん顔してるの?』って、やきもきしたり、落ち込んだりしてたそうだ。」


「そりゃ、そうなるよな。鈴ちゃんの立場からすりゃ。」


「真相は、メガネがなきゃ、夜も日も明けなかった俺が、ナンパしに行ったのに、メガネ忘れて、相手の顔がハッキリ見えなかったって、マヌケな話。それだって、『顔もハッキリ見えてなかったのに、あの時、私を助けてくれたんだ。素敵!』ってことになるらしい。」


そして、また達也はため息をついた。