それはまさに号泣というに相応しい泣き方だった。さっきまで、自分が流していた涙もすっかり止まり、しばし呆然と妻の様子を見ていた達也は、ハッと我に返ったように


「鈴。」


泣きじゃくる妻に声を掛ける。しかし、鈴はしゃくり上げ、顔も上げずに泣き続ける。それを見た達也は席を立つと、妻の横に回り、その震える肩に手を置く。その感触に、ピクリと反応した鈴は


「聞かないの?」


と言いながら、泣き濡れた瞳で、達也を見上げた。


「出張行って、高橋さんと1日一緒にいて、お前達どうなったんだって?」


その妻の問いに


「それが気になってないなんて強がりを言うつもりはないけど、今日久しぶりに鈴に会って、君の雰囲気から、その答えはなんとなく、もうもらえたような気がしてる。」


と達也は答える。


「達也・・・。」


「それにさっき、お義父さんに結婚前に言われた言葉、伝えてくれたよな。あの言葉を鈴が俺の前で、口に出来たんだから、たぶん・・・大丈夫だったのかなって。」


そう言うと、達也は微かに笑ったが、すぐに表情を硬くする。


「それはともかくとして、鈴。」


「はい。」


「さっきの俺の言葉に対する、君の答えが聞きたいんだ。」


その夫の言葉に、鈴は静かに立ち上がり、彼を見つめた。そして1つ深呼吸すると


「達也と一緒に居たいです。あなたが許してくれるなら、あなたの側に戻りたいです。これからもずっとずっと、達也の奥さんで居させて下さい!」


そう言って、達也を見つめた。見つめ合う2人・・・やがて


「ありがとう。」


静かに達也が言う。


「達也・・・。」


呟くように、夫の名を呼んだ鈴の目から、また涙があふれだして来る。そんな妻に


「おかえり、鈴。」


そう言って、達也が優しく微笑んだ瞬間、鈴は吸い込まれるように、夫の胸に飛び込む。


「ごめんなさい。達也、本当にごめんなさい。」


そう繰り返す鈴を


「間に合った・・・取り戻した・・・よかった・・・。」


そうつぶやきながら、達也は強く抱きしめていた。