今週も瞬く間に過ぎたような、そのくせ、とても長かったような、不思議な感覚だった。仕事を終え、鈴が実家の自室に戻って、一息ついた時、時計の針は夜の10時を過ぎていた。


良子は明日まで、出張で留守。50の声を聞いても、管理職として、何人もの部下を統率し、精力的に地方出張もこなす母。


(私がお母さんの齢になった時、同じように仕事バリバリやれてるのかな?)


ふとそんなことが、頭によぎり、たぶん無理だろうなと自答しまう。


(だって、私はお母さんほど、仕事に情熱燃やせないもの。きっと・・・。)


そして、フッとため息をつく。会社に退職の意思を伝えてから1週間が過ぎた。


「私達は所詮は駒、会社からすれば代わりはいくらでもいる。だからこそ、私達は常を全力を尽くさなきゃ、会社で生き残れないんだよ。」


母はよくそう言っていたが、それだけに、会社からここまで強く引き留めを受けるとは思っていなかった。正直ありがたいと思う反面、戸惑ってもいた。


「時代が変わったのか、鈴がよほど優秀なのかはともかく、そこまで言って下さるなら、残ったらどう?達也さんと同じ会社に居るのが気が引けるのかもしれないけど、今どき社内離婚なんて、珍しい話でもないし、もともと業務上での接触はあまりなかったんでしょ?だったらそこは、あまり気にしないでもいいんじゃないの?」


良子はサラリと、そんなことを言って来るが、「子の心、親知らず」とはこのことだと、ため息が出る。


退職届提出、そして別居発覚。自分と達也の間に、何かあったことは、もう社内には完全に知れ渡ってしまった。辞表と別居は無関係と鈴は言い張っている。それが全く額面通りに受け止められてはいないことは感じているが、しかし彼女が口を開かなければ、その「何か」の内容を人に知られることは、当分ないだろう。


でも達也が、誰かに話してしまう可能性はある。彼が夫婦間のトラブルを積極的に口にするとは思えないが、思い余って・・・ということもある。誰かに聞いてもらいたい・・・そんな心理状態に陥ってしまってるかもしれないのだ。


達也と別居してからほぼ2週間。ほとんど、コミュニケーションもなく、ここまで来てしまった。このままでいいはずはない、これからどうするのか?もうそれを話し合うことから逃げることは許されない段階に入っていることは、達也もわかっているはずなのだ。でも・・・。


夫からの連絡はない。携帯を見てはため息をつく日々。連絡をくれないのなら、こちらからすればいい。だがその勇気がもてないまま、ここまで来てしまった。しかしもう・・・。


意を決した鈴が、夫の携帯を呼び出そうと、ボタンに指を掛けた、まさにその時だった。


鳴り響く着信音、ディスプレイを確認するまでもなく、その音は誰からの着信かを教えてくれる。


「もしもし。」


夢中で電話に出た鈴の耳に


『突然なんだけど・・・明日こっちに来られないか?』


緊張を帯びた夫の声が飛び込んで来た。