「ハッキリ言って、俺は真純と結婚する気なんか全然なかった。でもあいつに惚れられて、あしらってもあしらっても、アタックし続けられて、押し切られて渋々結婚したんだ。だから、結婚しても、遊ぶ気満々だったし、だから嫌がるあいつを、無理矢理専業主婦にさせた。職場にあいつがいたら、煙ったくてしょうがねぇからな。」


「・・・。」


「だけどさ、実際に一緒に暮らしてみて、俺は驚いた。あいつは本当に、俺に一途に尽くしてくれてさ。俺だけを見て、俺の為に何をすべきかを、いつも考えてくれてる。そしてあんな大変な思いをして、俺の子供を産んでくれたんだ。こんなに俺を愛してくれる人が、この世に2人といるわけないよ、絶対に。だって、俺なんて大した男じゃない。営業部のエ-スなんて言われて、うぬぼれてたって、将来社長になれるわけでもねぇし。でもそんな俺を一途に愛してくれる真純が、心底愛しくなって、感謝してもしきれなくて。そして今、俺が真純に惚れ抜いてる。真純が俺から離れない為なら、なんだってする。どんなにイケメンの金持ちや権力者が、真純を奪いに来ても、俺は身体を張って、戦って、絶対に誰にもあいつを渡さない。俺は今、本気でそう思ってる!」


思わぬ飯田の熱い告白に、達也は圧倒される。


「なのに、お前は何をした?お前はな、鈴ちゃんが『私が悪うございました。どうぞお許し下さい』って言って縋って来るのを待ってるだけの卑怯者だ。大切な人を奪われるかもしれないのに、去って行くかもしれないのに、戦いもせず、追いすがる自分の姿を見せたくない臆病者だ。お前は自分が可愛いだけだ。自分の手を汚さず、何の努力もせず、嫌なこと、辛いことから、逃げてるだけだ。違うか!」


飯田に睨み据えられ、達也はもはや、何の反論も出来ずに、俯いている。


「俺は今、後悔してるよ。」


「えっ?」


「俺はな、昔、鈴ちゃんのことが好きだった。でも、鈴ちゃんはなぜかお前に夢中で、全然相手にされなかった。だからお前に負けるなんて、本当に釈然としなかったけど、諦めた。だが、お前がここまで腰抜けのヘタれだとわかってたら、絶対に引かなかった。」


「・・・。」


「もしこのまま、鈴ちゃんが醜い不倫妻に堕ちて行ってしまったとしたら、いや既に堕ちてしまっていたら、それは鈴ちゃん本人が悪いのは間違いないが、お前が彼女をそうさせたんだ。そう追い詰めたんだ。俺はお前を絶対に許せねぇ!」


「飯田、お前・・・。」


「神野、運命は確かに黙ってても、掴めるものかもしれない。でも運命に甘えて、胡坐かいて、何の努力もしなきゃ、運命だって逃げてくよ。だから、本気で鈴ちゃんを愛しているなら、諦めずにぶつかってみろ。カッコつけてねぇで、彼女に縋ってみろ。もちろんもう、手遅れかもしれねぇ。でも、もう一回鈴ちゃんを振り向かせることが出来るかもしれない。違うか?何事も諦めたら、そこでもう終わりだろう!」


ここで言葉が途切れた、訪れる沈黙・・・。2人は見つめ合う・・・いやにらみ合うように、視線を絡ませていたが、やがて


「飯田、お前の言う通りだ・・・。ありがとう。」


そう言って、達也が頭を下げる。その姿を見て、飯田がフッと照れ臭そうな笑みを浮かべる。


「さっきも言った通り、俺は今でも鈴ちゃんのファンだ。だが所詮ファンは、遠くから声援を送ることしか出来ない。それに今の俺は、真純を愛するだけで手一杯なんだ。だから頼んだぜ、鈴ちゃんの最愛の旦那様。」


「おぅ。」


達也は心を決めたように、短くそう答えて頷いた。