「そんなのもう無理だろ。」


吐き出すような達也のその答えに、鈴の表情が歪む。


「俺以外の男に心惹かれ、友達に恋愛相談しながら、でもお前の態度は、全く変わらなかった。普段通り、俺と一緒に生活し、俺に甘え、俺と身体を重ねて・・・。だから、お前の携帯を開き、全ての真実を知ったあと、俺はお前という女が空恐ろしくなった。なんで、何食わぬ顔のまま、俺と一緒に居られるんだろうって。」


「・・・。」


「今、お前はこれからも俺と一緒に居たいと言った。だけど、それだって所詮はさっきと同じ理由。俺にすべてバレちゃったからだよな。」


「それは・・・。」


「違うって言い切れるのか?相手の男のこと、本当に諦めたって言えるのか?今は言えるかもしれない。でも、それはお前の本心なのかよ?鈴は本当に納得して、また俺を選んでくれるのか?もしそうじゃないんだったら、今回はこれで終わったとしても、また同じことが起こるよな、きっと。だったら、そんなの意味ねぇよ。問題が先送りされるだけじゃねぇか!」


「ごめんなさい、あなた以外の人に心惹かれてしまったことは、本当に申し訳ないと思ってます。でも、これだけは信じて下さい。私はあなたを愛してます、あなたを嫌いになったわけじゃないんです。」


「でも、もっと好きな人が出来た、出会う順番が違ってた・・・てか?梨乃ちゃんにそんなこと言われて、鈴は否定しなかったもんな。」


「達也・・・。」


達也の口調は、あくまで冷たく、そして厳しい。鈴はそんな夫が悲しくなる。


「信じてくれって言ったよな。信じられるわけないだろ、今のお前の言葉なんか、どうやったら信じられるんだよ。逆に教えて欲しいよ。」


「・・・。」


「出てってくれ。」



「達也・・・。」


「俺は女優さんみたいな人と、一緒に暮らすのは、もうごめんだよ。」


達也のその言葉に


「嫌。」


短く答えると、鈴は首を振る。そんな妻の姿を見た達也は、ため息をつくと


「わかった。じゃ、俺が出て行く。」


「えっ?」


「これ以上、一緒に居たって、いいことなんか何もないよ。そうだろ?」


そう言った達也の顔は、悲しみに満ちていた。そんな夫の顔を見た鈴は


「今の私が聞けることじゃないけど・・・。」


「えっ?」


「達也はもう・・・私のことなんか、好きじゃなくなった?」


おずおずと、そんなことを言った妻に


「それなら、きっとこんな苦しい思いをしてないよ。」


達也は吐き出すように答えた。一瞬、見つめ合った2人。そして鈴は


「私が・・・出ます。本当にごめんなさい。」


あふれ出しそうになる涙を懸命にこらえながら、頭を下げた。