「で、鈴はどうしたいの?」


達也が静かにそう尋ねる。しかしその言葉の響きは、相変わらず冷たい。


「ごめんなさい。」


俯きながら、そう言った鈴に


「そうじゃないだろ。」


達也の声に、やや厳しさが増す。


「俺の質問に答えてよ。鈴は、これからどうしたいんだよ?」


「・・・。」


訪れる沈黙。俯いたままの妻を、腕組みをした達也は、厳しい表情で見つめる。やがて


「出張は・・・お断りします。」


そう小さな声で言った鈴に


「それは残念だったな。鈍感だと見くびっていた旦那に気付かれてしまったばかりに、せっかくの憧れの人とのデ-ト旅行を諦めなきゃならなくなって。」


「達也・・・。」


その夫のあまりの冷ややかな物言いに、鈴はさすがにたまりかねたように顔を上げると


「デート旅行なんかじゃないよ。」


と言い返すが


「自分で『仕事の名を借りた、半分レジャ-』『私から誘っちゃうかも』とか浮かれたこと言っといて、よくそんなこと言えるな。」


と鋭い視線を向けられて、また俯くしかなかった。そして再び訪れる沈黙。それを消え入るような声で破ったのは、鈴だった。


「だったら、なんで止めようとしなかったの?お前、何考えてるんだって、なんで問いただしてくれなかったの?達也はもう私のことなんかどうでもよかったの?」


「ふざけるな!」


ついに達也は大声を出した。


「言いたいことばかり、言ってんじゃねぇよ。出張断るって言ったよな。でもそれって、俺にいろいろバレちまったから、仕方なくそうするってだけじゃねぇか!」


「達也・・・。」


「逆に聞きたいんだけど、俺が何も気付かないままだったら、どうなってたんだよ?」


「えっ?」


「それでも出張を止める、あるいは出張に行ったとしても、絶対に流されない。そういう選択肢は鈴の中にあったのかよ?」


そう問い掛ける達也。その夫の顔を見つめた鈴は、やがて俯き加減に


「・・・わからない・・・。」


そう力なく答える。その妻の返答を聞き、達也は肩を落とすと、フッとため息をついた。そして、何かを決心したように一つ頷くと


「鈴、改めて聞く。これからどうしたいんだ?」


気を取り直して、そう問い掛けた。その問いに、顔を上げた鈴は


「これからも、一緒に居させて欲しいです。」


そう答えた。


「本気か?」


驚いたような声を出す達也に


「はい。」


そう言って鈴は、真っすぐ夫を顔を見た。