まもなく仕事納めを迎えた鈴は年末年始、達也と久しぶりにたっぷり一緒の時間を過ごした。


いっぱい甘え、いっぱいイチャつき、いっぱいいろんな話をして・・・幸せで楽しい時間だった。


大晦日からは達也の実家で。達也の両親は、実の娘以上に、鈴を大切にしてくれている。それは申し訳ないくらいに。


更には年明けの2、3日は、鈴の実家へ。達也の両親と違い、愛情表現の薄い母親に、鈴はヒヤヒヤすることが多いのだが、達也が全く意に介さず、母に良くしてくれるのが嬉しかった。


そんな日々の中で・・・しかし鈴の心は実は穏やかではなかった。


達也と一緒に過ごす時間は幸せで、久しぶりに会う義両親や母親との時間は、楽しかった。


なのに、ふとその時間が途切れ、1人の時間が生じると、鈴の表情は途端に重くなる。


(高橋さん・・・。)


高橋のことが、頭をもたげる。今、高橋は何をしてるのだろう、会いたい、声が聞きたい・・・そんな思いにとらわれ、胸が苦しくなる。切ない心を抱えて、悶々としているうちに、ふと我に返る。


(私は何を考えているの?)


慌てて、そんな思いを振り払う。夫と一緒にいる時には、高橋の存在など、全く浮かんで来ない。義両親の前でも、平気で達也に甘え、冷やかされては照れ笑いを浮かべる。


なのに、1人になると、途端に思いが高橋に向く。現実問題として、鈴は高橋からヘッドハンティングをされている。


そのことを真剣に考え、夫にも相談する必要があるはずだった。しかし、今の鈴にはヘッドハンティングのことは、ほとんど考慮の対象になっていない。鈴の心に浮かぶ高橋は取引先の副社長ではなく、1人の男性だった。


(どうしよう・・・。)


自分が夫のある身でありながら、他の男性に対して向けることは許されないはずの想いを、高橋に抱いてしまったことは、もはや否定しようがない。鈴はそう自覚せざるを得なかった。


(絶対にダメ、そんなことあり得ないし、許されない。私には達也がいる。生涯を共にすると誓い合った大切なパートナーがいるんだから。私は達也を心から愛してるんだから。)


達也に対する愛情は、全く消えてないし、変わっていない。そのことには自信がある。


なのに何故・・・?鈴は、自分で自分がわからなくなっていた。