話が終わり、レストランを出て、駅まで送ってもらった鈴は


「今日は本当にありがとうございました。」


と高橋に頭を下げた。


「いや、僕も楽しかった。どうもありがとう。」


そう笑顔で答えた高橋は、しかしその後、表情を引き締めると


「さっきの話、真剣に考えて欲しい。」


鈴をまっすぐに見て、言った。


「はい、少しお時間をいただければ・・・と思います。夫にも・・・相談したいので。」


鈴の口から出た「夫」というワードに、高橋は、一瞬顔を歪めたように見えたが、すぐに表情を戻すと


「それは当然だと思います。では、良いお年を。」


と答えた。


「今年は、お世話になりました。来年もよろしくお願いします。」


鈴はそう言って、頭を下げ、車から降り立った。それを見届けた高橋は、軽く会釈をして、車をスタートさせる。


走り去る車を、一礼して見送った鈴は、高橋の車が見えなくなると、フッと息をついた。


様々な思いが去来するのを感じながら、歩き出そうとした鈴は、その前に携帯を取り出した。すると1つのメッセージがポップアップされる。


『愛してる。』


たった一言、達也からだった。そのメッセージを見た途端、鈴は固まる。


(どうしたの?急に・・・。)


何の略脈もなく送られて来たそのメッセージを見た鈴の心はズキリと痛む。見れば、もう2時間以上前に、送られて来ていた。鈴が慌てていると、夫から電話が入った。


『今、どこにいるんだ?』


電話の夫の声は、明らかに不機嫌だった。今まで梨乃と会っていた、鈴はとっさにそう答えていた。どこにいるという達也の質問の答えになってないことは、わかっていたが、そうとしか答えられなかった。そこをつかれたくなくて、すぐにメッセージの意味を聞く。


経緯を聞いて、ややホッとした鈴は、あと1時間程で戻ると夫に告げ、電車が来たからとまた嘘をついて、電話を切った。


通話を強引に終わらせて、携帯を閉じた鈴を襲ったのは、激しい罪悪感と自己嫌悪だった。


(私は何をしているの?)


帰らなきゃ・・・次の瞬間、鈴は駆け出していた。