「悠雅は、私の義理の弟なの」


私を囲む女子生徒達が、にわかに色めき立つ。


「弟だったの?じゃあさっき一緒にいた1年の子は?もしかして碓氷くんの彼女?」


「ひょっとして三角関係?」


勝手に盛り上がる彼女達に、私は内心溜息を漏らした。
……やっぱり、学年が違っても悠雅は女子に人気があるんだな。
でも、こんなふうに悠雅との関係を邪推されるのは、あまり愉快とは言えない。


脳裏に、悠雅の「言いたいことは言えばいい」という言葉がちらつく。
本当に言っても大丈夫なのだろうか。嫌われたりしないだろうか。


私は冷や汗をかきながら下を向き、このままでいいはずがない、と自分を奮い立たせた。
そうして顔を上げ口を開いた瞬間、チャイムが鳴り、女子生徒達は自分の席へと戻っていった。


私はせっかくかき集めた勇気がしぼんでいくのを感じながら、自分の席に腰を下ろした。


……言えなかった。


視線を感じてそちらのほうを向くと、菜々が私の顔を無表情で見ていた。
私と目が合うと、すぐに逸らされる。


私は窓から空を眺めながら、次は絶対にちゃんとしよう、と心に誓った。