私は袖で涙を拭い、再び悠雅の顔を見た。


悠雅の瞳からは感情が伺い知れない。
それでもその顔を懸命に目に焼き付ける。


「……ねぇ悠雅、私からもお願い」


涙で濡れた頬をひくつかせながら、精一杯の笑顔を作った。


「会えなくても、悠雅のお姉ちゃんでいてもいい?」


せめて姉弟という繋がりだけは、この手に残しておきたい。


悠雅は私のそんなわがままに、うつむきがちに頷いた。
そして、私の横を通り過ぎて去っていく。


私は振り向けなかった。
振り向いたら、またみっともなく「行かないで」とすがりついてしまいそうだったから。


どれくらいそうしていたのか、私はようやく傍らに放り出された紙袋の存在を思い出した。
しゃがんで中を見ると、箱の中でロールケーキが倒れてぐちゃぐちゃの状態になっていた。


「……あーあ……もったいないなぁ……」


箱についた生クリームを指で掬って舐める。
甘いはずの生クリームは、涙の味でしょっぱかった。