証拠に足が地学教室に向かっていた。
早歩きになって、走って、全力疾走して、廊下を走るなって叱られても息を切らすほど全力で足を回して地学教室に飛び込んだ。
はあ、はあって肩で呼吸をして、暗幕をひかないただま明るい部屋に嫌になって、その真昼間の空白にねえ、って呼びかける。
「ひ、ひた、ち、っ、ひたち、常陸、」
常陸、常陸ってしつこく呼ぶ。絶対その部屋に誰もいないのに、常陸、って呼びすぎて、もう口が壊れたみたいになってしまって、うわあん、て涙が出た。
〝浮気された被害者同盟〟だったなら、私たちはいつだって被害者として、加害者を許してあげなきゃいけないの? 違う。許したかったんじゃない。私は許したわけじゃない。許したふりをしていれば、また颯くんが瑠璃さんに触れたとき、
ここで常陸に会えると思ったんだ。
折り紙をした。飛行機をつくった。話した。笑った。その目が確かにお互いを捉えていて、それだけが傷つけられた私たちの唯一無二だったのに。常陸、常陸って呼んで、子供みたいに泣き噦って座り込む。
「まるで死んだみたいに人のこと呼ぶのやめてくれん」
ふっ、と耳を掠めた音声に目を見開いて動きを止める。
声のした方に振り向いて、そこに茶髪の、灰緑色の目をした同級生が立っていて、ぽろ、と涙が溢れる。
「生きてんだわ」
「ひたっ…」
ひたち、と呼んでその身体を自分の方へ抱き寄せる。抱き寄せる、というか、もうこれは頭一つ分背の高い常陸に私が抱き着いたので寄せると言うかはしがみついていた。
ひく、ひくって声を漏らす私の頭に、ぽん、と常陸の手が触れる。
「…瑠璃もゲロったわ」
「ぅ、え?」
「私浮気してましたって」
ごめんなさいって謝った、という。みんなの前で頑なに縦に振らなかった頭を、颯くんと同じように瑠璃さんは常陸の前でだけ自白したのだ。
「………ひ、たち、どうした?」
「どうしたと思う?」
「わか、な」
「俺は許したよ」
その言葉に愕然とする。許した、許したんだ。でもそれは私も同じことをしていて、今思えば、私も颯くんが謝った日、その背中を抱きしめて呆然と許容した。許した。許したんだ。
「っ、じ、じゃあ、常陸瑠璃さんとこ戻、」
言葉にしたらそれだけで崩れ落ちてしまいそうで、そこまでいつの間にか傾いていた心に、気づかないようにしていた自分に、吐き出してしまっている自分にゾッとする。同じことをしていた。浮気をされて、監視して。その被害者二人が同盟を組み、
そこで恋に落ちるなんて。
そんなのは狂ってる。
「わかってねーな佐々山は」



