何度も忘れようと誓ったのに、会わないと決めたのに、大人の事情がそうはさせてはくれなかった。
飲み会の場であなたの姿を目にしてしまう。

先輩の隣で笑ってるあなた。
やり切れなくて、その場から逃げ出した僕。

外に逃げたのはいいけど、ホントに残念だ。
情けなさに輪をかけて雨が降り出した。
消えて無くなってしまいたいと思った。


途方に暮れ、しばらく落ちる雨を見つめていると、目の前に誰かの脚が止まった。


〝 濡れるよ 〟

その声に見上げたら、傘を向けるあなただった。
神様の情け?


こんな情けない姿を、優しい眼で見つめないでよ!
優しくされたら、僕はもう……、抑えきれない。

鬼の欲望のままに、雨の中、あなたの腕を掴んで抱き寄せた。
そして耳元で、

〝 あなたが好きだ 〟

呟いた。

〝 ……。〟

あなたは何も言わない。

撃沈……。

僕は諦めてあなたを解放した。

そう思った瞬間、俯く僕の頬にあなたの手が触れた。

〝 ――――っ!!〟

呼吸を忘れるほど驚いた。
どうあがいても、触れてなんてもらえない手が、今触れている。

やっと触れてくれた。
特別な相手でない限りあなたに触れられないのに。
触れてもらえない、その手が僕に触れている。

温かい……

泣きそうだった。


〝 いつから……? 〟

いつもの優しい眼ではなく、悲しい眼であなたが言った。

〝 初めて会った時から 〟

僕は答えた。

〝 遅いよ…… 〟

あなたの唇から静かに響いた。

ホントに終わったーーー
もう二度と会えないな、そう思った瞬間、

〝 一緒に謝りましょう 〟

確かにそう聞こえた。
顔を上げるとあなたの瞳が緩んでいた。


裏切りの夜。
僕らは激しく燃えた。