「いらっしゃいませ。」
「天野様、いらっしゃいませ。いつもありがとうございます。」
 フロアスタッフの大きく明るい声が響いた。やっ てきたのは天野、岩宿、安川だ。三人を横目でチラッと見た真が言う。
「ヒーロー甲、乙、丙だな。」
「ヒーローズですか。」
 実が兄に相槌を打つように言った。
 天野達は予約していた座敷に案内された。 フロアスタッフが〈俳鰤懐石三人前〉と厨房に伝える声が聞こえた。
 実が〈いいもの食べてるなぁ〉と、真は〈ハイブリッドな懐石か〉と言った。

 居酒屋〈俳鰤〉の鰤料理は和食の調理法だけでなくフレンチやイタリアンの技巧も使われている。勿論、調理に使う鰤は延岡の地産地消。土々呂沖の大敷網に入った鰤だ。

「ありがとうございました。」
  支払いを済ませて帰る客にスタッフが声をかける 。ドアが開くと外の声が流れ込むように聞こえてきた。〈また化け物(ばけもん)が出たぞ〉 、〈仰怪人(ぎょうかいじん)か〉。
 真と実は顔を見合わせた。