午後の授業とホームルームを終えた放課後。
いつも通り図書室へ行き、本を開いた。
挟まっていた栞が昼の出来事を思い出させる。
彼女は僕に普通に話しかけてきた。
今、僕に普通に話しかけてきてくれる人は小野寺と彼女しかいない。
昨年、暴力事件を起こし、2ヶ月も停学させられた。
それまでは多少いた友達も停学後には居なくなっていて、今も小野寺以外に友達と呼べる人はいない。
しかし彼女は昨年、不登校だったため、恐らく僕の起こした暴力事件の事を知らないのだろう。
彼女が俺に普通に話しかけてきてくれたのはその為だと思う。
思い出したくもない過去を思い出してしまった。
読書に集中しようと本のページをめくる。
インクの香りと共に甘い女の子の香り。
ん?女の子の香り?
顔を上げるとそこには中井がいた。
「ビックリさせちゃったかな?」
か、顔が近い!
耳がすごく赤くなってカッと顔が熱くなるのを感じた。
「うわぁぁ!」
とっさに席を立ち上がると、バランスを崩して尻もちをついてしまった。
「だ、だいじょうぶ!?」
「う、うん」
机の角を持って立ち上がった。
幸い怪我はしていないようだ。
「沢田くんは面白い反応をするね」
と彼女は、俺を見てくすくすと笑っていた。
「笑い事じゃないよ」
そう言いながらも自然と笑みがこぼれた。
「この本は?」
彼女は俺の持っていた本を指さしながら聞いてきた。
「これは芥川龍之介の仙人っていう作品で...」
僕は彼女にこの本の説明をした。
彼女は時折、頷きながら僕の話を聞いてくれた。
はっと気づいた時には、もうかなり話していたようだった。
本の話になると止まらなくなる。
「ごめん!つまらなかったよな」
僕は我に帰って彼女に謝った。
「え!?なんで謝るの?」
返ってきたのは意外な返事だった。
「いや、その、こんな古い作品の話をしても面白くなかっただろうなって思って」
「私もたまに、昔の文豪の作品とか読んだりするからすごく面白かったよ!」
彼女はもしかしたら本好きなのか。
「本好き?」
「うん!恋愛ものばっかり読んでるけどね」
好みのジャンルは違っても同じ本好きというだけで、すごく嬉しかった。
ますます、彼女に興味が湧いてきた。
「そうだ!また面白い本があったら、教えてよ!」
「土日と金曜以外の放課後はずっと図書室いるから。」
「りょーかい!」
彼女は笑顔で答えて見せた。
自然な流れで彼女と会う理由ができた。
彼女と距離を縮められるのではと思うと嬉しくなった。
「あ、そろそろ下校の時間だよ!」
彼女はそう言うと「またね!」と言って帰っていった。
時計を見るともう時刻は6時に迫っていた。
彼女との1時間はあっという間に感じられた。
僕も荷物をまとめて図書室を出た。
自転車に乗り、駅まで行き、電車にのって家の最寄り駅まで帰る。
いつも下校中は読書をしているのに、今日は彼女のことばかり考えていた。