悠飛は、事の経緯を初めから順序立てて説明してくれた。

 悠飛と久我(こが)さんが婚約していたのは事実。銀行の跡取りなのも事実。

「でも、紘子は、子供の頃からの付き合いで、言ってみれば、妹みたいなものなんだ。そのことに、何の疑いも持たずにいたのに、光と出会って違うことに気付いた。女性を好きっていうのは、こういうことなんだって」

それって、本気で私を思ってくれてたってこと?

「だから、婚約解消してもらおうと、いろいろ動いたんだけど、どうしようもなくて。あの会社にいる限り、メインバンクの親の息が掛かってるから、親の手のひらの中で転がされてるのと同じだし。だからといって、他の会社に行っても、結局は銀行は横の繋がりもあるから、どうしてもしがらみから抜けられないって気付いて」

悠飛も苦しんでたんだ。

「だから、1年前、俺は外資系の会社の採用試験を受けて、そっちに転職するつもりでいた。ただ、親にバレて妨害されないように、表向きは親の言うことを聞いて辞めたように見せる必要があったから、会社では何も言えなかった。でも、光にだけは、ちゃんと言っておくべきだったって、あの後、思ったよ」

「悠飛、銀行に戻ったんじゃ……」

「違うよ。本当はすぐに迎えに来たかったんだけど、外資系だから、研修ですぐに海外に行かなきゃいけなくて」

悠飛は、ジャケットの内ポケットに手を入れた。

「本当は、1年前、出発する前に、渡したかったんだけど……」

そう言って、小さな箱を取り出す。

「今さらだとは思うけど、光、俺と結婚してください」

悠飛が箱を開くと、一粒のダイヤが、西の空に沈みかけた月の光を受け、キラリと輝いた。

「ふふっ、星が降ってきたみたい」

私は、半泣き半笑いの複雑な表情で、呟いた。

「じゃあ、願い事をしなきゃな。光は、何を願う?」

悠飛は、真剣な目で私を見つめる。

「悠飛は?」

私は答えることなく、尋ね返す。

「そんなの、光と結婚できますように…しかないだろ」

うん、うん。

私は、言葉にならなくて、ただ、何度も何度もうなずいた。また、私の目から、滴が流れ落ちる。悠飛は、そっと私の頬に触れて、またその滴を拭った。

「光、愛してる。誰が何と言おうと、俺には光しかいないから」

悠飛の言葉が、今夜はすとんと胸の奥に落ちる。

「私、悠飛のお嫁さんになってもいいの?」

そう尋ねると、

「当たり前だろ。もう、誰にも文句は言わせないし、俺の人生は、俺が決める。俺は、光と生きるって決めたんだ」

そう言って、私の髪をくしゃりとかき混ぜた。

「光、返事は?」

そんなの、もう決まってる。

「……はい。よろしくお願いします」

私が答えると、悠飛は

「ありがとう!」

と私を抱きしめて、また、長い長いキスを落とした。


「本当は、今日、流れ星に願い事をして、明日、光の実家に迎えに行くつもりだったんだ」

そう教えてくれた悠飛。

この先、きっとまだまだ大変なことがあると思う。

でも、悠飛と一緒に、頑張って一つ一つ乗り越えて行きたい。


大好きな悠飛とずっと一緒に。


─── Fin. ───


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