しばらく、そうしていると、一つ目の星が流れた。

「あっ!」

「流れたな」

篠宮さんは、私の手を握る手に、きゅっと力を込めた。

「何か願い事はしたのか?」

そう尋ねられて、私はハッとした。

「そんなこと、すっかり忘れてました」

「だよな。天野は何をお願いするんだ?」

手を離した篠宮さんが、ごろんと隣で動く気配がしたかと思うと、肘枕姿でこちらを見ている。

わ、近い!

私は静止できなくて、目を泳がせる。

「べ、別に、特に願い事なんて……」

この体勢、恥ずかしすぎる。
どうすれば、いいの?

困った私は、篠宮さんに質問を投げ返した。

「し、篠宮さんは、何をお願いするんですか?」

「俺か? 知りたい?」

また、問い返されて、私の心臓は壊れそうなほど早鐘を打っている。私は、返事すら出来なくて、ただ、無言でうなずいた。

「俺の願いは、ひとつだけ。天野と付き合えますように」

へっ⁉︎
今、なんて?

私は、言われてる意味がよく分からなくて、思わず、篠宮さんを見る。すると、じっと私を見つめる彼と、目が合ったまま、逸らすこともできなくなった。

「天野、どう思う? 俺の願いは叶うと思うか?」

それって……

私は、しばらく篠宮さんを見つめた後、再び無言でうなずいた。

「良かった」

篠宮さんは、そっと右手で私の頬に触れると、ツーっと目尻から流れ落ちた滴をそっと拭った。

「こんなところにも流れ星がいるな」

篠宮さんは、くくっと笑みをこぼす。

「ち、違います!」

私は、精一杯の強がりで、その笑みに対抗するけれど、顔の左横に手を突かれ、ちゅっと目尻にキスを落とされると、一瞬で心臓が止まってしまった。

 目の前に篠宮さんの顔がある。もう、目を逸らすことすらできない。左肘を突いた篠宮さんは、そのまま右手でそっと私の髪を撫でた。

「天野、好きだよ。ずっと好きだった」

本当に?

あまりのことに、なんて返事をしていいのか……

それでも、私は、ようやく答えを絞り出した。

「わ、私も篠宮さんが好きで……」

最後まで言えなかった。唇を篠宮さんにふさがれてしまったから。長い長いくちづけの後、私を見下ろす篠宮さんは、いつになく、優しく微笑んでいる。

 こうして、私たちの幸せな交際は始まった。