「みっくん……?」
「なんですか?」
慌てて彼に声をかけるが、その様子は至って普通。いつもと変わらない。
……気のせい、かな。
「どうしたんですか? 夏帆先輩」
「あっ……、ううん。なんでもない」
首を横に振り、眉を寄せてじっと見つめてくる彼の視線から逃れるように、私は外の景色に意識を集中させた。
「先輩」
彼の声が左から放たれる。
たった四文字の言葉が、胸の鼓動を加速させる。
「なに?」
「次の駅で降りませんか?」
「えっ?」
思いもよらぬ言葉に私は振り向く。
当然、私たちの降りる駅は次ではない。ここから四駅先にあり、そこから地下鉄に乗り換える必要があるんだ。
“次の駅で降りる”その意図が私には読むことが出来なかった。



