【side 夏帆】


一切風の通らない体育館での部活動を終えた私は、更衣室での着替えを済ませると一人寂しく昇降口へと向かっていた。


「……あっ、夏帆先輩だ」


後方からかけられた声に思わず足を止めた私は、僅かに上がった口角を瞬時に元に戻した。

何食わぬ顔で振り向くと、ペットボトルを二本抱えた少し背の低い男子がそこにはいた。


「今日も部活お疲れ様です」


柔らかな笑みで手渡してきたのは、先程彼が自動販売機で購入したスポーツドリンク。

嬉しい気持ちが溢れる中、表の私がぎこちなくお礼を言うと彼は「一緒に帰りませんか?」と可愛らしい笑みで誘ってくる。


返事はせず、ちいさく頷いた私に彼は嬉しそうに微笑んだ。