しばらくぼんやりとしたあと、紫織は意を決して母にメッセージを送った。
『お母さん、ごめんなさい。急用ができて明日は帰れないの』
明後日にはと言いたいが、この時期に簡単に新幹線の予約は取れないだろう。できれば来週か再来週。そう思っていると、母からは意外な返事が返ってきた。
『大丈夫よ。それがね、今年は初盆とかあちこち忙しくて。明日は夕方まで帰れなさそうなの。本当は来週のほうがゆっくりできていいんだけど、でも紫織は今週じゃないと休めないんでしょう?』
『え!そうなの? じゃあ来週にするね。私もそのほうが都合いいわ』
『良かった。じゃあ来週、待っているわ』
これで正当な理由ができた。
ほっとした紫織は、早速室井に休みの変更を申し出た。
――さて、次の問題は……。
宗一郎が部屋に来る。
どうしよう。夕ご飯はどうするんだろう?
実家に帰らなくなったのだから、宗一郎が食べなくても作り置きに回しておいてもいいし、用意だけはしておこうかな。
となると冷めても美味しいものがいい。もしくは簡単に温められるもの。と考えて、冷蔵庫にあるものを思い浮かべて鶏の南蛮漬けを思いついた。
いまでも好みが変わっていなければ、彼は唐揚げが好きなはず。かといって揚げたてを出せるわけじゃない。でもタルタルソースをたっぷりつけた南蛮漬けなら冷めても美味しい。
――よし。
帰宅途中足りないものだけ買って、紫織は家路を急いだ。
宗一郎が何時に来るかはわからない。早めに用意を済ませなければと、とりあえずそれだけを考える。
ポテトサラダに、鶏の南蛮漬け、素揚げした茄子とピーマンを甘辛味噌で和えたもの。そしてワカメと豆腐のお味噌汁。
「できたぁ」
全ての準備が終わり、フゥっと一息ついて見た時計の針は、七時を示していた。
『社長は働き者だなぁ。八時前に帰ったことなんかないんじゃないのか?』
室井がそう言っていたことがある。
今日もそうだとすれば、来るのは八時過ぎになるだろう。
――宗一郎。
『ごめん。俺にはやっぱりお前しかいない』
でも、いまさらじゃない?
もし、この偶然がなかったら、私のことなんて忘れたんじゃないの?
その思いがないわけじゃない。
でもどうするの? 紫織。ちゃんと言える?
私たちは終わったんだって言える?
今でも好きなくせに、言えるの?
自問自答を繰り返すうちに、胸の奥が鉛のように重たくなってくる。
あの時、宗一郎を突き放した七年前。
宗一郎は一度も食い下がることもなく、あれきり紫織の前から姿を消した。
『お母さん、ごめんなさい。急用ができて明日は帰れないの』
明後日にはと言いたいが、この時期に簡単に新幹線の予約は取れないだろう。できれば来週か再来週。そう思っていると、母からは意外な返事が返ってきた。
『大丈夫よ。それがね、今年は初盆とかあちこち忙しくて。明日は夕方まで帰れなさそうなの。本当は来週のほうがゆっくりできていいんだけど、でも紫織は今週じゃないと休めないんでしょう?』
『え!そうなの? じゃあ来週にするね。私もそのほうが都合いいわ』
『良かった。じゃあ来週、待っているわ』
これで正当な理由ができた。
ほっとした紫織は、早速室井に休みの変更を申し出た。
――さて、次の問題は……。
宗一郎が部屋に来る。
どうしよう。夕ご飯はどうするんだろう?
実家に帰らなくなったのだから、宗一郎が食べなくても作り置きに回しておいてもいいし、用意だけはしておこうかな。
となると冷めても美味しいものがいい。もしくは簡単に温められるもの。と考えて、冷蔵庫にあるものを思い浮かべて鶏の南蛮漬けを思いついた。
いまでも好みが変わっていなければ、彼は唐揚げが好きなはず。かといって揚げたてを出せるわけじゃない。でもタルタルソースをたっぷりつけた南蛮漬けなら冷めても美味しい。
――よし。
帰宅途中足りないものだけ買って、紫織は家路を急いだ。
宗一郎が何時に来るかはわからない。早めに用意を済ませなければと、とりあえずそれだけを考える。
ポテトサラダに、鶏の南蛮漬け、素揚げした茄子とピーマンを甘辛味噌で和えたもの。そしてワカメと豆腐のお味噌汁。
「できたぁ」
全ての準備が終わり、フゥっと一息ついて見た時計の針は、七時を示していた。
『社長は働き者だなぁ。八時前に帰ったことなんかないんじゃないのか?』
室井がそう言っていたことがある。
今日もそうだとすれば、来るのは八時過ぎになるだろう。
――宗一郎。
『ごめん。俺にはやっぱりお前しかいない』
でも、いまさらじゃない?
もし、この偶然がなかったら、私のことなんて忘れたんじゃないの?
その思いがないわけじゃない。
でもどうするの? 紫織。ちゃんと言える?
私たちは終わったんだって言える?
今でも好きなくせに、言えるの?
自問自答を繰り返すうちに、胸の奥が鉛のように重たくなってくる。
あの時、宗一郎を突き放した七年前。
宗一郎は一度も食い下がることもなく、あれきり紫織の前から姿を消した。



