具現化アプリ

「そうなんだ?」


吉田さんは写真を撮りながらゆっくりゆっくりと階段を下りはじめる。


あと3秒。


あたしは後ずさりをして階段から離れていく。


あと1秒。


後ずさりをするあたしを見て吉田さんが怪訝な顔をした。


次の瞬間だった。


パンッと弾けるようにして13階段が消滅するのを見た。


それは音もなく、残骸ひとつ残すことなく消え去った。


後に残ったのはもともとあるコンクリートの壁だけ。


あたしは呼吸をすることも忘れてその光景を見つめていた。


13階段の上部にあった闇も、そして吉田さんも、どこにもいない。


「よ、吉田さん?」


声をかけてみても返答はなかった。


屋上へとつながる階段を上って周囲を確認しても、吉田さんの姿はない。


「階段と一緒に消滅した……?」


誰もいなくなった階段で、あたしは呟いたのだった。