具現化アプリ

しばらくその場でどうしようか思案していた様子だけれど、やがて決心したようにまた階段を上がり始めた。


あたしは何度もスマホで時間を確認する。


あと5分で階段は消滅する。


吉田さんはそんなこととは知らずにゆっくりゆっくり、怯えながら階段を上がっていく。


階段上部を目前にして、吉田さんは足を止めた。


さすがに自分から闇の中に入っていく勇気はないみたいだ。


「なにこの闇……」


寒いのか、吉田さんは自分の両腕をさすりはじめた。


あたしはスマホを確認する。


あと3分だ。


「闇の中に入ってみればいいのに」


声をかけると吉田さんは一旦振り向き、あたしを睨んだ。