「もう一度、一緒に泳ごう。」
私の目から大粒の涙が零れた。
私がずっと欲しかった言葉。
私の弱い心では、言い出せなかった。
もう一度リツと泳ぎたい、と。
でもリツはこんな私に手を伸ばすように言ってくれた。
私がリツの隣で泳ぐことを許してくれるの?
リツのことを考えずにリツから、水泳から去ってしまった私にも、もう一度チャンスをくれるの?
―それなら、私はそこから逃げずに立ち向かうよ。
どんな事があっても、隣でリツが笑ってくれる限り。
「うん!」
リツと目が合う。
あの頃のように、リツは笑って私に手を差し伸べる。
私がその手を握ると、思いっきり引かれて一緒にプールに飛び込んだ。
制服が濡れたことなんか構いもしないでそのまま2人で浮かぶ。
夕日があたったプールはほんのり赤色に染まっていた。
「私、リツの泳ぎが一番好きだよ」
私は真っ赤な空を見ながら言う。
リツは少し笑って、
「俺も、カナの泳ぎが一番好きだ」
と言った。
そしてなんとなく自然に手を繋いだ。
もう、この手が離れることは無い。
私たちは、2人で1つだから。
リツが私の隣にいる限り、もう絶対に離したりしない。
「私、泳ぎたい。もう一度。」
今度はきちんとリツの方に顔を向けて真剣な表情で言う。
「おう。水泳部で一緒に泳ごうぜ」
リツの爽やかな笑顔が視界に入る。
リツ、ありがとう。
私にはやっぱり、リツと水泳が必要みたい。
この運命から逃れられそうにないみたい。
「水泳が、だいすきだーーー!!!!」
大きな声で空に向かって叫ぶ。
リツは数秒固まってこちらを、見つめていた。
その姿が可愛く見えて、思わず笑ってしまった。


