ふたつの羽根


シン…と静まり返るこの空間の中、拓真先輩の吐いた煙だけが宙に舞う。


一向に口を開かないあたしに「里奈ちゃん?」と拓真先輩はあたしの顔を覗き込んだ。


「えっ、泣いてんの?」


その時、拓真先輩の声で初めて気付いた。あたしの目から涙が落ちていた事を… 


本当に涙って馬鹿みたい。
余計な時にいつも流れて、場所考えなよって言いたくなる。


あたし、やっぱりあの人には勝てない…

勝てないよ…


「彩乃さんには勝てないよ…」 


心の中の叫びがいつの間にか口から漏れていた。

あたしの弱々しい声の後「えっ、彩乃?」と拓真先輩は声を張り上げる。


拓真先輩の前でも涙は溢れるばかりで、あたしの口も止まる事はなかった。


「先輩…。抱いてよ…」