「あたし帰ります…」
ボソッと呟くあたしに拓真先輩はタバコの火を消す。
足を進めるあたしの背後から、すぐさま声が飛んできた。
「里奈ちゃん」
重く動いて行く足は前に進のも困難で、すぐに拓真先輩の声で止まる。
「大丈夫?」
何が大丈夫なんだろうか…
そして、あたしは返事を返すことなく重い足を前に進めた。
確かにバイトは色々あるけど、さすがのあたしもその内容にはついていけない。
視界がぼやけそうになる。
静かな階段を降りるたび教室にいる先生の声が微かに廊下に響いてくる。
気付けばあたしは下駄箱に着いていて靴に履きかえていた。
あるのはスカートに入っている家の鍵だけ。
もちろん鞄は教室で、しかもこんな時に限って携帯は鞄の中。
でも、今のあたしにはそんな事、どうでも良かった。



