「酒井くんの気持ち、ちょっとわかるから。だから謝らないで。話してくれてありがとう。苦しかったよね……」

どんな顔していいか分からなくて、浅海から顔を背けていたら、穏やかな声がした。

「苦しいとき、自分の周りがまるで世界の全てのように思えて、息苦しくてしょうがない」

そう話す彼女のまっすぐな瞳は、あの頃と全然違っていた。

たくましくなっている。確実に。
久しぶりに体育祭で再会した時よりもさらに。

「でもね、きっと、私たちが思っているよりも、たくさんの人たちがいて、世界はずっと広いよ。って、こんなこと言ってもだから何って感じだよね……」

「いや……っ、」

「でもっ、少なくとも私は、酒井くんが中学の頃から今までずっと気遣いのできる優しい人だってこと、ちゃんと知ってるよ。そして、今日ここにいるみんなも、それをわかってる、だから───」

しっかりと少しもそらさず俺のことを見ている綺麗な目。

真剣そのものなのが伝わる。

「行こ。戻ろう、みんなのところに」

おもむろに立ち上がった浅海が、俺に手を差し伸べた。