「……寧衣、く──」

「姫茉ー?遅れるよ?」

彼の名前を呼ぼうとした瞬間、教室のドアの方からチラッと私を見た羽芽ちゃんが「あぁ、」と納得したような声を出した。

「ほっときなー?多分不貞腐れてるだけだから」

「えっ、でも……」

あの寧衣くんが不貞腐れるって一体何があったんだろう。

羽芽ちゃんは、中学の時からの友達だからなんでもお見通し、なのかな。

私には汲み取ることができなくて、寧衣くんのこと、やっぱりまだ知らないことが多すぎて、

また心の中で、プシューっと何かが萎む音がしていると、

「しょうがない。先生にはテキトーに話しとくから、そこの人起こしたら、すぐ来てね」

私の気持ちを全部察したみたいに、羽芽ちゃんがそう言った。

「あ、うんっ!!っ、ありがとう、羽芽ちゃん!」

私がそういうと、手でオッケーのマークを作った羽芽ちゃんはニコッと笑って、

教室を後にした。