毒蛇(どくへび)毒蜘蛛(どくぐも)毒茸(どくきのこ)。頭文字に〝毒〟が付いているものは、危ないですよと示唆(しさ)してくれているので、実はとても親切だと思う。

逆に一番危険なのは、誰でも(さわ)れて、誰でも近づけて、毒なんて持ってなさそうな綺麗なもの。

そう、例えば――彼みたいな。


「えっ、うそ!?  チューリップって毒あるの?」

先輩がわかりやすく声を大きくしていた。私は無言で花の豆知識を書いたプレートを花壇にさす。

彼はふたつ上の先輩。みんなから「のえる」と呼ばれている。のえる先輩はスタイルがよくて、遠目からでも目立つほど身長も高い。

髪色は赤だったり青だったり茶色だったり。

ピアスは付けていたり、付けていなかったり。

指輪もしていたり、していなかったりする。

美意識が強いというよりは、好きなものを好きな時に身に付けている感じで、のえる先輩は自分が似合うものをよく知っている。

他の人がすれば首を傾げてしまうことも、先輩がすれば許される。彼はそういう魅力が溢れ出ている人だ。

「のえる先輩って、チューリップみたいですよね」

「どこが?」

「無防備に見えてしっかりと毒を持ってるところです」

「僕って、毒ある?」

返事の代わりに視線を彼の首筋に向ける。そこに昨日はなかったはずのキスマークが付いていた。

先輩はよく女の人と一緒にいる。それは彼が着こなしているTシャツと同じように派手な人ばかりだ。