近くにいた社員が私達のやり取りを見て唖然としていたが、私は気にしなかった。
一条さんの役に立てれば捨て石になってもいい。
今なら火の中にでも飛び込んでいけそうだ。
ずっと一条さんが好きだったんだもの。
彼のことを思って、首筋につけられたキスマークに触れる。
「……所有欲か」
一条さんがそんな気持ちでつけていない事はわかってる。このキスマークにたいした意味はない。
彼はきっと愛する男の役を演じて楽しんでただけだ。
そう言えば、一条さんも髪下ろした方がいいって言っていたよう……な。
「ひょっとしてキスマークバレてた?」
ゴミを取る時に首筋に一条さんの手が触れたのはキスマークを確認するため?
そんな考えが浮かび、一気に青ざめる。
考えすぎよ。そうよ、考えすぎ。
彼は私に気づいていなかったもの。
何度も自分に言い聞かせるも、それから全然仕事にならなかった。