瑠偉さんとホテルで会ったあの夜、彼はスーツ姿だった。ひょっとしたら見合いだったのかもしれない。
瑠偉さんの話に反対せず、社長はどこか納得した様子で頷いた。
「なんだ、そう言うことか。式の日取りは?俺が出張中の時にはやるなよ」
「心配しなくても秘書の東山さんに日程押さえてもらいますよ」
「それは楽しみだ。おめでとう」 
何なのこの会話。
私を無視しないでくださいよ。
瑠偉さんと社長は勝手に話を進めていく。
ふたりは終始笑顔だ。
なんか外堀埋められてない?
このまま放置しとくと、そのうち赤ちゃんの話とかになるんじゃないだろうか?
社長も何故私の口を押さえてる瑠偉さんに突っ込みをいれないんですか!
意地悪なのは血筋ですか?
もう生きた心地がしない。
早く降りたい。
三十六階まで非常階段で上った方が余程マシだ。
そんな私の願いがやっと通じたのか、エレベーターが止まって扉が開いた。