[天界で、勝負しました]

 そして日は暮れ夜が明けて、おそらく人間界では十時くらい。

 今私は天使服を着て、何もかもが真っ白なお部屋にいる。壁も椅子もテーブルもカーテンも、一点の汚れもなく、すべてが白。だから靴の汚れとかが気になっちゃうし、触ると指紋を付けちゃいそうで、妙に緊張する。

「新しい靴を履いてくれば良かったな」

『天界に行くから、これを着ろ』

 今日の朝、いつもの時間に迎えにきたアクマ天使に、いきなりズボッと白い布を被せられた。

『暫く我慢してろ。いいって言うまで絶対喋んな。分かったか』

 こくんと頷くと、フードが被せられて、スピードを出す時みたいにしっかり抱き抱えられた。

 道中は羽音だけが聞こえ、ほかの音は一切しなかった。

『今から天の門を潜るぞ』そう言われて怖くなり、ぎゅうっと目を瞑ったのを覚えている。

『お帰りなさいませ。リクトール様』そんな声が聞こえたのも。

 腕の中から解放されてフードが取られると、既にこの部屋にいて、キラキラ光る宝石みたいな瞳に見つめられていた。

『大丈夫か。頭とか痛くねえか』

 アクマ天使の大きな手が頭を撫でていて、すごく心配そうだった。無言のまま頷くと「そっか」って心底ほっとしたような声を出した。

 たまに、優しいって感じる時がある。気遣ってくれると言うか。それはやっぱり私が人間だから。

 一緒に過ごすうちに、天使との体の構造の違いを理解したのしれない。

『もう喋っていいぞ。俺は、今から会議に行ってくる。ここで待ってろ』