「って! や~、もうっ、なんでドキドキしてんの? おかしいよ! あれは、治療なんだから!」

 じたばたする。頭をぶんぶん振って、アクマ天使の手の感触を追い出す。

 アイツは、超イジワルなんだから。

 ダメだよ、ダメダメ。パパの手。パパの手。優しい大きなパパの手――。

「あ、そうそう。それからね、パパの竹刀は春川さんとこに預けて来ちゃった。家に置くより、その方がいいでしょ?」

 教会と竹刀。マリア様の絵と達筆な〝無心〟の金文字。洋と和でちっとも合わなくて、竹刀袋持ってくれた細い春川さんを思い出すと、可笑しくて笑ってしまう。

 今日もいろんな話がある。ママには内緒なことも、パパには何でも言える。今は、ママが帰ってくるまでの、私とパパだけの時間。

 不意に部屋の空気が動き、玄関の方から何かを床に置く音がした。

「ただいま。朱里、ゴメンね。遅くなって。ちょっと手伝ってくれる?」

「おかえりなさい! それ、なあに?」

「ジュースの差し入れがあったの。みんな朱里のこと知ってるから、持って帰ってあげてよって、全部くれたのよ。あぁ重かった。これでも遠慮したんだけどねぇ」