だから問題はない。彼はそう笑うが、実際に空腹で倒れていたのだ。問題だらけではないか。

 アリシアは苦笑いして青年にお茶を出す。


 ティーポットをのぞき込んだ彼は、「おおっ!」と声を上げた。



「茶の中に花が浮かんでいる!」



 アリシアが彼のために淹れたのは、「工芸茶」と呼ばれる、花を茶葉でくるんだ一風変わったお茶。お湯を注ぐことでゆっくり花が開く。



「近くの港で定期的に、外国からの輸入品を集めた市が開催されるのだけど、そこで買ったお茶なの」



 気がついてもらえたことが嬉しくて、アリシアは上機嫌に答える。



「見ているだけでも楽しいでしょ?」


「ああ面白い!どこかの国ではこんな不思議な茶が作られているのか。俺もまだまだ世界を知らないらしい……!」


「ふふ、そう言ってもらえて嬉しいわ。せっかく旅行に来たのに、お腹を空かせて倒れた記憶だけになってしまったら悲しいもの。少しでも楽しい思い出に変える手伝いができたかしら?」



 アリシアがそう微笑むと、青年はまじまじと顔を見つめてきた。……と思うと、彼は突然立ち上がり、アリシアの両手を取った。

 いきなり何事かと、思わず後ずさる。