お見合いから始まる極上御曹司の華麗なる結婚宣言

「美月様、どうかされましたか?」

「え?」

明らかに口数が減った私の異変に気付いた倉本さんがバックミラー越しに私の様子を窺う。

「いいえ。なんでもないわ」

そう答えて作り笑いを浮かべたものの、内心は穏やかではない。父に会うのもキャンセルをして、紗希に話を聞いてもらいたい気分だ。

だけど迎えにまで来てもらったのに、まさか今さらそんなわがままは言えない。

気持ちが落ち着く間もないまま、私は実家に帰ってきた。

「久しぶりだな、美月」

「お久しぶりです」

母はどうやら仕事らしく、家に居たのは父と家政婦さんだけだった。父の書斎に通されて、家政婦さんが温かい緑茶に光月堂のわらび餅を添えて持ってきてくれた。

「ひとまずそこに座りなさい」

「はい」

コクリと頷き、ソファーに腰を下ろした。ぼんやりと緑茶から立ちのぼる湯気を見つめる。

「食べないのか? 美月が好きな光月堂のわらび餅なのに」

「あっ、えっと……いただきます」

フォークを手に取り、慌てて口に運ぶ。大好きな店のわらび餅なのに気持ちが沈んでいるせいか喉を通らない。

「なんだか元気がなさそうに見えるが、なにかあったのか?」

「え? いや、特になにもありません。ここのところ仕事が忙しかったので疲れているのかもしれません」

「そうか。無理はするなよ。疲れている中、呼び出してすまなかったね。渡すものを渡して簡潔に話をすませよう」

父がデスクから封筒を何通か持ってきて、目の前のテーブルに並べ出した。