こんな事しかできない自分がふがいなかったけれど、今は仕方がない。


一緒に逃げる事は、死ぬことを意味している。


ミヅキが椅子の高さを調節して座る。


目を閉じ、深呼吸をしている。


その瞬間から、ミヅキは自分の世界に入っていた。


目を開けた時、ミヅキの表情は明るかった。


周囲の出来事が見えていないかのように、ノビノビと鍵盤をたたき始める。


それは音楽に疎い俺でも息を飲むレベルだった。


ただ楽譜に忠実に引いているだけじゃない。


ミヅキの心が鍵盤を叩いているように感じられた。