「さっきからため息ばっかりうるさいわね」

「失恋したんだぞ。健全な男子高校生が失恋したんだぞ。落ち込むに決まってんだろ」

しかも嫌いな相手に負けたんだよ


「馬鹿ね。あなたに梓はもったいなかったってことよ」

…わかってるよ

梓はすげーやつだもん

俺なんかじゃつり合わない


「梓は心の綺麗な子だもの。いつも誰かのために自分を二の次にしてる。あんなに優しい子…私達にはもったいないのよ」



「お前にも?」

「…ええ。梓といると自分の醜さを思い知るわ」

…へえ

お前もそんなこと感じたりするんだな


「北条は」

あ、すげー久しぶりに名前呼んだ気がする

「…北条はいいやつだろ」

「…え?」

「お前こそいつも梓のことを一番に考えてるし、自分のことは後回しだし、俺はお前ほど友達想いなやつなかなかいないと思うよ」

あの梓でさえ、こいつには素直に頼る

なんだかんだ俺も、こいつがいると思うと心強い時が…あったりする


「……生意気ね」

はぁん!?

やっぱ撤回!

コイツ悪脳…え


パッと顔をあげて睨みつけようとしたら

向かいの北条は、見たこともないような表情をしていた


長い黒髪を指に巻きつけてクルクルしながら

ほんの少しだけ口角を上げ

伏せ目で微笑んでいた

白い肌は少しだけピンクに染まり、どこか嬉しそうな表情…に見える


…こいつこんな顔できたんだ


「…な、なに見てんの?」

「え、あ…いや」