梓の家は一度行ったことがある

同居が始まった日

あいつの素っ頓狂な顔を思い出す


最初に同居の話を出された時は全力で拒否した

唯一寛げる家での空間を誰かに邪魔されるのは死ぬほど嫌だと思った

でも学校で同居相手だと言われていた梓を見かけた時、息を呑んだ

忘れるはずもない中学の時出会った一週間のバスの子だとすぐにわかった

このチャンスを逃すわけにはいかないと、俺にしては結構足早に了承した


最初はその了承が失敗かと思ったけど

梓といる時間がいつのまにか当たり前になって

一人でいるよりも心地よくて

…今日、たった数時間だったのに

梓のいない家が冷たかった


『おかえりなさい!』

『いってらっしゃい!』

『ご飯できたよー!』


何気ない1日が

梓がいるだけで全く違うものになった


『梓帰さないから』


「くそっ…」


とられてたまるか

駆け足で暗くなり始めた街を行く