「ただいま…」

わかりやすく、通らない声で呟く



だけど家の中からは何も聞こえない

まだ帰ってないのかな


リビングに向かいながら悶々と頭を回す

ちらつく蒼馬と真琴くん

いや、それよりまず洗濯とご飯を…

ガチャ



リビングの扉に手をかけた瞬間

自動で扉が開いた


見上げると扉の向こうでドアを開けたのは、まあ当然真琴くん

…なんだけど、何を考えているのか全くわからない例の無表情で私を見下ろす

「あ、いたの?ただいま」

「…」

え、聞こえてる?

ピクリとも動かない同居人

あれ、これ真琴くんだよね
フィギュアとかじゃないよね


えっと…あの

そこどいてもらえませんかね

めっちゃ立ちはだかってるから通れないんですけど

「あのー…真琴くん?」

え、せめて動こう?

喋れとは言わないから動いてくれ

声帯は使わなくて良いから筋肉使って


「真琴く」

「梓」

あ、喋った

「ど、どうしたの」

「…カフェ行ったの?あいつと」

あいつ
とは、蒼馬かしら?

「行ったけど…」

「…あそ」

えー聞いといて『あそ』はなくない?