「そうだったのか……気がつかなかったよ。
 ごめんね、美幸。
 大好きだよ。
 愛してる。
 これからは、会うたびにキスをしよう。
 デートの時には、もっといいことも。
 ずっとずっとしていこう……」

 暮れかけた陽の斜めにさす、僕たちのほかは誰もいない、教室で。

 僕たちは初めて、キスをした。

 美幸の甘く、柔らかい唇に。

 熱に浮かされるように湧き上がってくる【愛してる】の想いが抑えきれなくなって。

 僕は。

 心から美幸と未来を誓いたかった。

 ……のに。

 下腹部を走る、ずしんと重い痛みに、僕は我にかえった。

 それは、僕が本当は男じゃない、印。

「……っ!」

 僕は一体、何を。

 口付けをやめようとした僕に、美幸は抱きついた。

「教室には誰もいないわ……
 隆也、続きを……」

「……出来ないよ。
 ……美幸。
 これから先は、ダメだ……」

「隆也」

「僕たちには、将来(さき)がない」

 キスも。

 それから先のことも。

 本当は、赤ちゃんを授かる為の神聖な行為のはずなのに。

 身も心も女のくせに、美幸が好きって言うだけで、形ばかりの男の僕が、側にいたら。

 美幸のお母さんになるって言う夢は、永久に叶う訳もなかった。

 辛く面倒な美幸の月経は、無意味なモノになってしまうのだ。

「……やっぱり、僕は、女の子になる」

 likeより重い。

 カラダを重ねるloveよりは自由な。

 Sexless‐Love……無性の愛は、今までの僕のstyleだったけれど。

 きっと、それも限界に違いなかった。

「……友達でいよう、美幸」

 僕には、涙で霞んで先なんて見えなかった。

 美幸も泣いていた。

 だけども、多分。

 これが最良の選択だと思いたかった。