「隆也!」

 悲鳴のような声に。

 いつの間にか閉じていた目をもう一度開ければ。

 長い髪をなびかせた背の高い女の子が、元気に駆けて来るところだった。

 眼鏡が無くて、良く判らないけれど。

 あれは、多分。

「……美幸」

「隆也!
 午後の授業に出て来ないと思ったら、こんなコトに、なっていたなんて……!
 また、栗田君達ね!?
 今度こそとっちめて……!」

「いいよ、別に」

 そのまま、くるりと向きを変えて飛んで行きそうな美幸を、僕は止めた。

 この状況で、美幸にかばわれたら。

 また、何をされるか判らない。

「それよりも……
 ……僕のジャージを……取って来てくれるかな?
 ……栗田にズボンと上着をはぎ取られて、教室に戻れないんだ」

「本当に、ヒドいコトするわよね!
 ……って、大変!
 隆也!!
 下着に、血がついてるわよ!?
 大丈夫!?」

「ああ。
 さっき、割れた眼鏡で手ェ切ったから……」

「そんな量じゃないわよ!!」

 必死な声に、痛みにうめきながら、下半身を見れば。

 黒いTシャツと、パンツでわかりづらかったけれど。

 まるで、腹を刺されたみたいに、ぐっしょりと血で濡れているらしい様子が見えた。

「……!」

 その光景に気がついて。

 情けなくも貧血を起こしかけた僕に、美幸の必死の声が、聞こえた。

「隆也!!
 死なないで!
 わたし、今、先生を呼んで来る!!」