「……なぁ、マジ恥(ハズ)いんだけど」

「何、言ってるのよ~
 女の子になるためにわたしを振ったんだから、責任とってキレイになってよねっ♪」

 僕は、眼鏡をコンタクトに変え、フリルの山ほどついたワンピースを美幸に着せられ、街にでた。

 初めて、化粧品を買うために。

 僕は、結局。

 夏休みを使って、手術をし……完全な女の子になった。

 別の高校に編入するための試験はしたくなかったし。

 改めて入学金を払うのももったいなかったので、僕は今の学校に残る事になった。

 性別を変え、名前を変えて。

 とはいえ。

 混乱を避けるために、両親と美幸の他には教師以外に、このことは知らない。

 学校では、今まで通り男子生徒として登校しているのに。

 美幸は卒業までに、僕をちゃんとした女の子にすべく、燃えている。



「僕は一生、男と付き合わないから、別にキレイにならなくたって」

「莫迦ね。
 女の子は可愛くしてた方が色々得なのよっ!」

「そ、そう?」

 女って本当は、たくましいなぁ。

 感心していると、見慣れた二人組が声をかけて来た。

「……げっ」

 栗田と吉野だ。

 こんな格好がバレたら、ヤツらに何を言われるか……

 どきどきしてたら、栗田達は笑って言った。

「田代さん。
 可愛いお友達と一緒なんだね。
 樋口の野郎もいないし、今日は俺達と付き合ってよ。
 全部おごるからさ」

 おお。バレてない。

 しかも、なるほど、得だ。

 驚いている僕に、片目を瞑ると、美幸は言った。

「イ・ヤ・よ」

「そ、そんなぁ……」

 情けない顔の栗田に、僕達はゲラゲラ笑いながら、逃げ出した。



 僕は、美幸の彼氏ではなくなった。

 いずれ、美幸にも新しい彼氏が出来るに違いないけれど。

 僕達が、本当に別れなくてはならなくなるまで、もう少し余裕がありそうだった。

 それまでに僕は、この、自分の新しいカラダを受け入れられるかな?

 大切な友人として、美幸を愛して行けるかな?




 見上げる空は。

 秋になっても、変わらず蒼く澄んでいた。



  (了)