……かしゃん。




 高々と青空に舞った僕の眼鏡が、落ちて砕けた。

 今月になって三本目の眼鏡だった。

 僕の銀縁眼鏡は、作られてから一週間もしないうちに。

 コンクリートがむき出しになっている高校の屋上の床に叩きつけられ。

 ぶ厚いレンズに蜘蛛の巣みたいな亀裂を走らせて、その役目を終えた。

「……!」

 レンズがダメでも、せめて。

 その、真新しいフレームだけでも救おうと反射的に手を伸ばしたとき。

 這いつくばった僕の手を、栗田 北斗(くりた ほくと)が割れた眼鏡ごと踏みつける。

「つっ! やめろ!
 離せよっ!!」

 たまらず、叫んだ僕を。

 側にいたクラスメートの吉野 晶(よしの あきら)は、ただげらげら笑いながら見ていた。

 割れたレンズが、僕の手を傷つけ、血がどくどくと流れ出したのに。

 栗田は、情け容赦なかった。

 ぐりぐりと思い切り僕の手の甲をかかとで踏みつけ、怒鳴る。

「樋口 隆也(ひぐち たかや)!
 テメーだけは、気にくわねぇんだよっ!
 運動はデキねー
 勉強はデキねー
 牛乳瓶の底みてーな、ぐるぐるメガネをかけた猿のくせに!
 なんだって、オンナにだけは、モテんだよっ!」

「……しらねーよっ!」

 そんなコトは!!

 栗田の、言いがかりに。

 足の下の手を抜いて、反撃しようと身をよじると。

 見ていた吉野が、僕の背にのしかかって来た。

「くそ、卑怯だぞ!!」

 身動きできない僕に、栗田は、せせら笑って宣言した。

「生意気なんだよ!
 樋口!!
 今日という今日は、テメーのその顔、ずたずたにしてやるからな!」