そこには由子が映っていた。

ホームビデオとかではなく、由子がテレビに出演している時の映像である。

由子がMCの前にワゴンを押しながら、賞品を持ってくるだけの僅か数十秒ほどの出演……。
しかも4時間の特番で、一回だけの登場……。
それが、4時間丸々と録画されていた。

「お父さん、機械音痴だから、編集出来なかったのよ……。」
紀子は由子を見て、
「DVDとかも苦手だから、未だにビデオテープだし……。」
と言った。

「だからビデオテープなの?」
と由子は言った。

「うん、DVDは傷が付いたら見れなくからって……。」
紀子は少し間を置いて、
「ビデオテープだって、伸びたら終わりなのにね。」
と苦笑した。

「お、お父さん……。」
由子は、呟くように言った。

「由子が映ってる番組の殆ど全部、録画してあったみたい。」
と紀子は答えた。

「……。」
由子は黙って画面を見ていた。

「しかも、私にも内緒でね。」
と紀子は苦笑した。

「え?」
由子は紀子を見た。

「お父さんは、私がビデオテープの存在に気付いている事は、知らなかったと思うわ。」
と、紀子は言った。

「そうなの?」
と、由子は目を丸くした。

「うん。」
紀子は頷くと、
「最初はビックリしたわよ……。」
と言った。

「何で?」
と由子は訊いた。

「急に夜中に起きだして、コソコソとビデオを見だしたから……。」
紀子は由子を見て、
「エッチなビデオでも見てるのかと思ったわ。」
と苦笑した。

「まぁ、確かに……。」
と、由子は頷いた。


━━5年前のある日の夜中……。

隣りの布団で寝ていた勇作が、ふと起き出した。

(ん?)
紀子は、その時の物音で目が覚めた。

こっそりと部屋を出ていく勇作……。

(お父さん……どこ行くの?)
気になった紀子も、こっそり起き出す。

そっと後を付ける紀子。

勇作はリビングにいた。
手には一本のビデオテープが握られていた。

(ビデオテープ?)
陰から見ていた紀子は、首を傾げた。

勇作は、テープをテーブルに置くと、キッチンへ向かった。

日本酒の一升瓶とコップを手に戻って来る。

テープをデッキに入れて再生を始める。

(!?)
紀子は目を丸くした。

由子が出演している番組の録画だったのだ。

それも、ちょっとしか出ていない、とても<出演>と言えないくらいの時間である。

勇作は、その場面を何度も繰り返して見ていた。

「由子……。」
勇作は日本酒を一口飲むと、
「頑張れよ……。」
と呟いた。

(お、お父さん……。)
紀子は、黙って見ていた。

そして、紀子は一足先に布団へと戻った……。