━━2020年6月22日、月曜日の夜……。
今日、勇作の通夜が行われた。

通夜が終わった後……。
ここは桜木家のリビングである。

「お母さん……。」
由子は声を掛けた。

「何?……。」
紀子は由子を見た。

「私……。」
由子は少し間を置いて、
「お父さんと喧嘩したままだったね……。」
と言った。

「由子……。」
紀子は言った。

「私が東京で、芸能界に入りたいなんて言って……。」
由子は紀子を見つめて、
「お父さんを怒らせちゃったからね……。」
と呟いた。

「……。」
紀子は、黙って由子を見ている。

「お父さん……。」
由子は薄っすら涙を浮かべて、
「きっと、まだ怒ってるよね……。」
と呟いた。

「お父さん……。」
紀子は由子を見つめて、
「もう、怒っていなかったわよ……。」
と言った。

「え?」
由子は紀子を見た。

「あ、そうだ……。」
紀子は何かを思い出したように、部屋を出て行った。

紀子の後ろ姿を見つめる、由子。

━━しばらくして、紀子が段ボール箱を抱えて戻って来た。

「由子、これいらない?」
紀子は箱を床に置いて、
「いるなら、宅配で送ってあげるけど……。」
と、由子を見た。

「何それ?」
由子は首を傾げた。

「ビデオテープよ。」
と紀子は答えた。

「え、いらないわよ。」
由子は怪訝そうに、
「そもそも、ビデオデッキ持ってないし……。」
と言った。

「あら、そう……。」
紀子は少し寂しそうに、
「お父さんの宝物なのに……。」
と言った。

「お父さんの?」
と、由子は訊いた。

「うん。」
紀子は頷くと、
「ちょっと見てみようか?」
と促した。

「う、うん……。」
由子は頷いた。

━━箱からビデオテープを一本取り出す紀子。

テープは最初からではなく、途中で止めてあった。

デッキに入れて再生してみる……。

━━テレビの画面に映像が映し出された。


「こ、これ……。」
由子は驚きを隠せずに、
「私だ……。」
と呟いた。