僕は「うん」と言って笑いながら、かつて見たあの姿を思い出す。

 狂ったように目をギラつかせる彼女の姿を……。

「あっ、蓮くん」

「ん、んう?」

 オレンジジュースのストローから口を離し、焦って彼女を見る。

「夏休みだし、暇だったら手伝いに来ていいよ?」

「手伝い?」

「消しゴムかけとか」

 うーん、と考えてから僕は真面目に答える。

「と言っても、俺も課題とか塾で忙しいしなぁ」

「それじゃあ、私が漫画描いてるそばで課題やってもいいよ?」

 花純さんは手を振り、幾らか動揺していた。

 これは……。

 部屋に誘われている、と。

 そう思ってもいいのだろうか?

 彼女をベッドに押し倒す想像が一瞬にして頭を過り、僕は甘い妄想を慌てて頭の中から追い出した。

 原稿用紙に向かう彼女の邪魔をしたら、それはそれで後が怖い気がする。

「うん、ありがとう。でも花純さんの邪魔したくないし。また時間が空いてたら手伝いに行くよ」

「……そ、そう?」

 僕の無難な答えに彼女は眉を下げ、若干不服そうに唇を曲げていた。

 ファーストフード店を出て、手を繋いだままウインドーショッピングを楽しむ。