「そうです。名無しの権兵衛だと可愛くないからって、花純さんが付けてくれましたよね? ゴーストのゴウくんって」

 その途端。ガタッ、と椅子を引き、彼女が立ち上がった。

 彼女がそのまま立ち去る予感がして、僕はグッと彼女の右腕を掴む。

 花純さんは目に涙を溜めて、申し訳なさそうに僕を見ていた。

 僕も彼女をジッと見つめた。

 さわれる、と思った。

 今まで何度となく空振りを繰り返してきた彼女に、ようやく、さわれるんだ。

 花純さんは唇を震わせて、丸く大きな瞳からポロっと涙を零した。

「〜〜っ、そんな、ゴウくんが"赤いバラの王子さま"だったなんて……。私っ」

 言いながら彼女は肩をすぼめ、消え入りそうな声で呟いた。

「……恥ずかしくて……っ、死にそう」

 その様子を見ながら、クスッと笑みをもらす。

「ゴーストの時も、今も。俺は花純さんが好きです。やっとさわれる様になったんだから、逃げないで下さい」

 掴んだ手をグッと引き寄せ、彼女をまた丸椅子に座らせた。

「そのままの花純さんが好きです、だから……俺の彼女になって下さい」

「……っ、はい」

 彼女は俯きがちに、またシクシクと泣き出した。

 その頭をできるだけ優しい手つきでふわっと撫でてみる。

「事故に遭った日の夜。俺と花純さんの意識は白い糸で繋がれたんです」