僕の病室に女性が二人入って来て、一人が手にした花瓶を近くの棚に置いていた。

「蓮の意識が戻っていたら、良かったんだけどねぇ……」

 二人のうち、そう呟いたのは母さんだ。見た瞬間に分かった。

 母さんが置いた花瓶には赤いバラが三本とピンク色のかすみ草が生けてある。

 もう一人は、若くて可愛らしい女の人だった。ふんわりと巻かれた髪をサイドにまとめ、可憐な印象を受けた。

 突如として、こめかみあたりがズキっと痛み、「う…っ、」と声を上げる。

「えっ!! 蓮!?」

 僕の声に反応したのは母さんだ。

 僕は眉間を歪めたまま、手で顔を押さえた。

「う、うそっ! 蓮、目が覚めたの??」

 母さんは涙声で焦っていた。

「た、大変っ、直ぐにお医者さんを呼ぶからね??」

 母さんは僕の頭もとにある配線を引っ張り、丸いボタンを押していた。ナースコールだと分かり、直ぐに看護師らしき人が応答する。

 母さんは動揺しつつも、僕の目が覚めた事を伝えていた。

 額を押さえた手をのけて母さんの顔をまともに見ると、わずかにやつれた印象を受けた。

 随分と心配をかけたのだろうと思うと、申し訳なさで胸が詰まった。

 母さんが焦って病室と廊下を行ったり来たりする間、頭痛もスッと収まり、僕は虚ろな瞳でもう一人の女の人に目を向けた。

 バチッと目の合った彼女は赤い目から涙を零していた。

 目をそらす事なく、僕は彼女の顔をまじまじと見つめる。

 彼女は鼻をすすり、「あの」と恥ずかしそうに僕に近付いた。

 ーーーッ!!