お姉さんは今のこの状況に観念したように、ふふっと笑う。

「それに。結構はっきり見えてるし……さわれは……しないのよね?」

 お姉さんが僕に手を伸ばし、肩の辺りをつつこうとするが、スルッとすり抜けるので彼女は諦めて手を引いた。

「……さて。どうしよっか?」

 今度はテーブルに置いた空き缶を見るとは無しに見つめ、お姉さんが眉を寄せる。

「天国って事は。成仏させる必要があるのよねぇ……」

 そう言って、「うーん」と腕組みしながら唸った後、ハッと何かを閃き、顔を上げた。

「そうか! 要はやり残した事があるから、天国に行けなかったんだわ!」

『……やり残した事』

「そうよ、キミはさっきどこかに行く途中だったって言ったでしょ? それがどこか分かれば……。
 つまり、ちゃんと行けたら成仏できるかもしれない、そういう事なんじゃない?」

 真面目な顔で同意を求める彼女を見て、僕は首を傾げた。

 正直なところ、分からない、というのが率直な感想だ。

 僕は、僕自身が分からない事をアレコレ思案しても仕方がないと考え、お姉さんに空いた缶の所在を尋ねた。

『ところでお姉さんは、お酒を飲んでいたんですか?』