当てにならない推測を確かめるため、僕は病室の扉をすり抜けた。

 白いベッドの上に、蓮と思われる男性が横たわっていた。

 顔には大袈裟なマスクがはめられ、身体には細い管が幾つか繋がれている。

 頭元には心電図形らしき機械。

 点滴用のパックが宙に二個吊られ、蓮の手首へと薬剤を流し込んでいた。

 僕は彼を見つめたまま、その顔が確認できるまで恐る恐る距離をつめた。

 この人が花純さんの言う"赤いバラの王子さま"か、と思ったその時。

 突然、蓮の目が開いた。

 おもむろにといった速さでは無く、急にパチっと目を見開き、瞳は僕をまんまと捉えていた。

 え……っ!

 僕は動揺し、後ろに数歩あとずさる。

 体の奥から今までに無い熱が発生する。

 僕はぎゅっと目をつぶったまま頭を振り、今一度蓮を見つめ直した。

 彼は入って来た時と同様に、長い睫毛を伏せて眠っていた。顔にはプラスチック製の大きなマスクを付け、微動だにしない。

 今のは……気のせい?

 あとずさった足を出そうとして、奇妙な変化に気が付いた。

 あれ……??

 さっきより、というよりも、今までより格段に視野が高い。

 僕はベッドの彼を静かに見下ろしていた。

 不意にゾクッと肌が(あわ)だった。

 いや、霊体なので粟だつというのは(いささ)か間違っているのかもしれないが。

 背筋に氷を当てられたみたいにヒヤッとなる。

 なんだろう……、この感じ。

 病室(ここ)には、僕と彼しかいないはずなのに。

 何故か、もう一人。

 "別の誰か"がいるような気配がした。