気付いたら、僕は彼女の部屋を抜け出していた。

 花純さんはあれから三十分は泣き続け、布団を敷いてそのまま寝てしまった。

 大食らいの彼女が夕飯を抜くほど、彼の事故がショックだったらしい。

 彼、レンという赤いバラの高校生の事が。

 僕はベランダのあるガラス戸をすり抜けて、外に出た。

 霊体でありながらも、夜気の匂いがどこか心地いい。

 明日、花純さんと一緒に行くつもりだったが、僕はとにかくレンという高校生が気になっていた。

 なぜかは分からないが、彼に会いたいと強く思った。

 対抗意識とか嫉妬とかそんな感情ではないし、花純さんのために目覚めさせようという思いやりでもない。

 ただ会いたかった。

 ベランダから、フワッと宙へ舞い、空を飛ぶように空中を歩く。

 夜に一人で病院へ行こうと決意したわけだが、果たしてたどり着けるだろうか?

 僕は宙を歩きながら、後ろを振り返り、糸を確認して進む。

 背中から伸びる白い糸を、できるだけ(たゆ)ませようと、『離れるんじゃない、確認したらすぐに戻るから』と自分に言い聞かせた。

 僕は花純さんから離れたいわけじゃない。