僕は無邪気に睫毛を伏せて眠る彼女を見つめ、そっと玄関へと向かった。

 とにかく、僕が死んだ件に関して花純さんを巻き込むのは申し訳ない。

 早く彼女と離れて、この先の事は自分ひとりで考えよう。

 ドアノブに触れなくても、幽霊なんだからこのまますり抜けられるはずだ。

 ドアまであと数歩という所で、僕の動きは見えない壁に阻まれた。

 いや、壁というのは間違いだ。

 単純に首輪か何かを付けられた犬のように、これ以上進む事を禁じられている。

 うう……っ、何で?

 一生懸命に足を前へと踏み出すのだが、どういう訳かこれ以上前へは進めない。

 まるで背中に強い糸が張り付いているみたいだ。試しに後ろを振り返ると、その通り、僕の背中に白い糸がくっ付いていた。

『……はぁっ!?』

 鎖のようなそれを目で辿ると、ちょうど花純さんの心臓部から出ていると分かった。

 さっきまでは何にも無かったはずなのに……?

 僕は玄関から出るのを諦めて、また彼女に近付いた。

 半径一メートルまで戻ったところで、白い糸はスウッと消えて見えなくなった。

 試しに玄関では無く、ベランダから出ようと思い立ち、さっきとは反対方向へ進む。